東京地方裁判所 昭和58年(ワ)11302号 判決
【主文】
一 被告は、別紙物件目録記載の魚箱を製造し、販売してはならない。
二 被告は、その占有する前項記載の物件を廃棄し、同物件の製造に用いる金型を廃棄せよ。
三 被告は、原告に対し、金二六六万円及び内金二一〇万円に対する昭和五八年一一月二二日以降、内金五六万円に対する昭和五九年八月一一日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
四 訴訟費用は被告の負担とする。
五 この判決は仮に執行することができる。
【事実】
一 原告訴訟代理人は、主文同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、請求の原因として次のとおり述べた。
1 原告は左の意匠権につき、意匠権者である喜多やす子から昭和五六年三月一日、範囲・内容全部、期間・昭和五六年三月一日から同五九年二月末日までとする専用実施権の設定を受け、昭和五六年八月二六日その設定登録を了し、更に右専用実施権の存続期間の満了後である昭和五九年三月一日、新たに喜多やす子から、範囲・内容全部、期間昭和五九年三月一日から同六二年二月末日までとする専用実施権の設定を受け、昭和五九年四月二三日その設定登録を了した。
(一) 本意匠
出願人 喜多一夫
出願日 昭和四五年一二月三〇日
出願番号 意願昭四五―四六三二九号
登録日 昭和五〇年七月一六日
登録番号 第四一〇五〇七号
意匠に係る物品 包装用箱
登録意匠の範囲 別紙意匠目録(一)記載のとおり
右(一)の意匠(以下「本件意匠」という。)は喜多一夫の出願にかかるものであり、同人が登録を受けて意匠権者となつたが、昭和五一年五月二〇日に喜多やす子に譲り渡し、その旨の登録を了した。
(二) 類似意匠(一)
出願人 喜多一夫
出願日 昭和四五年一二月三〇日
出願番号 意願昭四五―四六三三〇号
登録日 昭和五二年一月一八日
登録番号 第四一〇五〇七号の類似第一号
意匠に係る物品 包装用箱
登録意匠の範囲 別紙意匠目録(二)記載のとおり
(三) 類似意匠(二)
出願人 喜多一夫
出願日 昭和四六年三月二〇日
出願番号 意願昭四六―八五三二号
登録日 昭和五二年一月一八日
登録番号 第四一〇五〇七号の類似第二号
意匠に係る物品 包装用箱
登録意匠の範囲 別紙意匠目録(三)記載のとおり
(四) 類似意匠(三)
出願人 喜多一夫
出願日 昭和四六年一二月二八日
出願番号 意願昭四七―五一号
登録日 昭和五三年三月一六日
登録番号 第四一〇五〇七号の類似第三号
意匠に係る物品 包装用箱
登録意匠の範囲 別紙意匠目録(四)記載のとおり
右類似意匠(一)、(二)、(三)はいずれも喜多一夫の出願にかかるものであるが、その後(一)、(二)については昭和五一年一二月一日、(三)については昭和五二年一月七日喜多やす子が本件の意匠登録を受ける権利を譲り受けたので喜多やす子が意匠権者として登録を受けたものである。
2 本件意匠の特徴
本件意匠は、右1(二)ないし(四)の類似意匠を参照してみると、上蓋のない長方形の箱を、同一の大きさの長方形のそれぞれが箱体をなす四つの部分に仕切り、それぞれの箱体の境界部分に切り込みを入れた包装箱の形状に関するものであつて、次の特徴を有する。
(一) 平面図は外線が長方形をなし、それぞれ長方形の枠取りがされた同一形状の四つの部分からなる。
(二) 底面図は外線が長方形をなし、平面図の四つの部分の境界に対応する部分に十文字に境界線が見える。
(三) 正面図は横長の長方形をなし、中央部に境界線が直線状に見える。
(四) 左右側面図は横長の長方形をなし、中央部に境界線が直線状に見える。
3 被告の行為
被告は、別紙目録記載の包装用箱(以下、「被告物件」という。)を製造し、販売している。
4 被告物件の形状
被告物件は上蓋のない長方形の箱を同一の大きさの長方形のそれぞれが箱体をなす四つの部分に仕切りそれぞれの箱体の境界部分に切り込みを入れた包装箱であつて、その形状は次の特徴を有する。
(一)' 平面は外縁が長方形をなし、それぞれ長方形の枠取りがされた同一形状の四つの部分からなる。
(二)' 底面は外縁が長方形をなし、平面図の四つの部分の境界に対応する部分に十文字に境界線が見える。
なお、底面には円形の押あとが六個見える。
(三)' 正面・背面は横長の長方形をなし、中央部上下に底部の切込み溝が見えている。
(四)' 左右両側面は横長の長方形をなし、中央部下部に切込み溝が見えている。
5 本件意匠と被告物件との対比
被告物件は物品及び前項で述べた基本的構造において本件意匠と同一であり、また被告物件の(一)'、(二)'、(三)'、(四)'の特徴は本件意匠の(一)、(二)、(三)、(四)の特徴と一致する。
なお、(二)'の底面において見える六個の円形はプレス成型の際の押し出し棒及び原料注入孔のあとであつて、極めて薄く、全体の形状に影響を与えるものではないし、(三)'及び(四)'において境界線が見えないことも全体の形状に影響を与えるものではない。
6 差止請求
よつて、原告は、被告に対し、被告物件の製造と販売の差止及びその在庫品の廃棄を求め、かつ、被告物件と製造するための金型の廃棄を求める。
7 損害賠償請求
被告は、昭和五七年一一月から昭和五八年一一月までの一三カ月間に少なくとも一カ月七万箱合計九一万箱の被告物件を製造して販売した。
(二) 原告が第三者に本件意匠権について再実施を認める場合は、最初の金型一台につき七五万円、製品一個につき一円の実施料を徴しており、したがつて、右の計算によれば、昭和五七年一一月から昭和五八年一一月までに原告が支払を受けるべき金額は一六六万(750000+910000×1)となる。
(三) 原告は、被告に対し警告を行ない訴訟外交渉によつて被告との紛争を解決しようと努力したが、被告はこれを無視して侵害行為を続けたため、本訴の提起をせざるをえなかつた。そのため本訴代理人を依頼せざるをえず、そのため訴提起に当り着手金として五〇万円を代理人に支払い、かつ訴訟終了の際五〇万円を報酬として支払う旨を約した。なお、被告は口頭弁論期日に出頭せず、答弁も不十分であつて誠意ある訴訟活動を行なつていないため、原告の訴訟活動は手間を要し、右報酬を軽減する事由は見当らないから、右一〇〇万円は被告の不法行為と相当因果関係のある原告の被つた損害というべきである。
(四) よつて、原告は、被告に対し、右(二)及び(三)記載の合計二六六万円の支払と、内金二一〇万円に対する訴状送達の日の翌日である昭和五八年一一月二二日以降、内金五六万円に対する原告第三準備書面送達の日の翌日である昭和五九年八月一一日以降支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 被告代表者は、被告が被告物件を製造販売しているとの事実は否認する旨述べた。
【理由】
一<証拠>によると、喜多やす子は請求の原因1記載の本意匠及び類似意匠(一)ないし(三)の意匠権者であり、原告は同人から請求の原因1のとおり専用実施権の設定を受けその登録を了していることを認めることができ、右各証拠及び弁論の全趣旨によると本件意匠の特徴は請求の原因2のとおりであることが認められる。
二<証拠>によると、被告は被告物件を製造し販売していること、被告物件の形状は請求の原因4のとおりであることが認められる。
三本件意匠と被告物件を対比すると、被告物件は物品及びその基本的構造において本件意匠と同一であり、被告物件の(一)'、(二)'の特徴は、本件意匠の(一)、(二)の特徴と一致する。もつとも、被告物件は底面は底面において六個の円形の押あとがあるが、<証拠>によればこれは極めて全体の形状に影響を与えるものではない。また、被告物件の(三)'、(四)'の特徴と本件意匠の(三)、(四)の特徴についてみるに、本件意匠においては正面、背面及び左右両側面中央部に縦の境界線があるのに対し、被告物件においては、正面、背面の中央部上下に、左右両側面の中央部下部に各切込み溝しか見えずこれを結ぶ境界線がないところが相違するが、これとて全体の形状に影響を与える差違とは認められず、全体として観察しても被告物件は本件意匠に類似するものと認められる。
したがつて、原告の被告に対する、被告物件の製造、販売の差止と被告物件の在庫品及び被告物件を製造するための金型の廃棄を求める請求は理由がある。
四次に、被告は、原告の本件専用実施権の侵害行為をするにつき過失があつたものと推定されるところ、<証拠>によると昭和五七年一一月から昭和五八年一一月までの一三カ月間に被告が製造販売した被告物件は一カ月七万個合計九一万個を下らないこと、原告の本件専用実施権に基づく本件意匠の実施に対し通常受けるべき金銭の額は、金型一個につき七五万円、製品一個につき一円が相当であることが認められる。そうすると、原告は一六六万円(750000+910000×1)の損害を被つたものと認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
また、前掲各証拠によると、原告は本訴提起を原告訴訟代理人に委任したこと、そして着手金として五〇万円を右代理人に支払い、かつ訴訟終了の際五〇万円を報酬として支払う旨約したことが認められるところ、本件訴訟の難易度、調査に要する日数等の諸事情を勘案すると、右弁護士費用一〇〇万円は、被告の不法行為と相当因果関係のある原告の被つた損害と認められる。
そうすると、被告は、原告に対し、合計二六六万円及び内二一〇万円に対する本件記録上訴状送達の日の翌日であることが明らかな昭和五八年一一月二二日以降、内五六万円に対する本件記録上原告第三準備書面送達の日の翌日であることが明らかな昭和五九年八月一一日以降支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。
(元木伸 飯村敏明 高林龍)
物件目録(被告物件)
添付図面に示す形状の包装箱(通称四つ割魚箱)
図面の説明
平面図 上方から見た図面
底面図 下方から見た図面
正背面図 平面図の上下方向から見た図面
左右側面図 平面図の左右方向から見た図面
A―A線断面図 平面図のA―A線に沿つた断面図